水産学部の授業の一環で製造された缶詰(非売品)。
製造からパッケージのデザインまで、学生が担当しています。

水産学部をはじめとする6つの学部と
学生主体のサークル活動に注目しました。
青く雄大な海が、私たちにもたらしているものとは?
魚と本学の関わり合いを多様な接点から見つめます。

本学が拠点を置く長崎県は、
豊かな漁場に恵まれていることから、
水産資源の宝庫として広く知られてきました。
そこで今回は「活かす・創る・食べる・知る」の
4つのキーワードを軸に魚にまつわる
研究や取り組みに注目。

水産学部の授業の一環で製造された缶詰(非売品)。製造からパッケージのデザインまで、学生が担当しています。

本学が拠点を置く長崎県は、豊かな漁場に恵まれていることから、 水産資源の宝庫として広く知られてきました。
そこで今回は“活かす・創る・食べる・知る”の 4つのキーワードを軸に魚にまつわる研究や取り組みに注目。
水産学部をはじめとする6つの学部と 学生主体のサークル活動に注目しました。
青く雄大な海が、私たちにもたらしているものとは?
魚と本学の関わり合いを多様な接点から見つめます。

本学が拠点を置く長崎県は、豊かな漁場に恵まれていることから、
水産資源の宝庫として広く知られてきました。
そこで今回は“活かす・創る・食べる・知る”の
4つのキーワードを軸に魚にまつわる研究や取り組みに注目。
水産学部をはじめとする6つの学部と
学生主体のサークル活動に注目しました。
青く雄大な海が、私たちにもたらしているものとは?
魚と本学の関わり合いを多様な接点から見つめます。

2024.11.01

とる漁業から養殖

ながさきBLUEエコノミー

ノルウェーサーモンに続け「JAPANぶり

2030年には国内における養殖ブリの生産量を24万トンに増やし、輸出促進を目指します。

征矢野 清
征矢野 清 教授
「ながさきBLUEエコノミー」
プロジェクトリーダー
(海洋未来イノベーション機構 機構長)

地域を潤し世界を支える水産業へ

「ながさきBLUEエコノミー」は、2023年に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム」地域共創/本格型に採択された大型プロジェクトです…というと難解ですが、平易に言えば、低迷する日本の水産業を盛り立て、持続的な水産食糧生産が可能な拠点づくりのモデルケース構築を託されたプロジェクトです。10年を目途に新たな養殖技術を創出し、雇用を生み、若者が定着し活気づく地域の構築を目指す取り組みが、長崎大学を代表機関として進行しています。

カギとなるのは養殖のDX化

「ながさきBLUEエコノミー」で掲げているのが「養殖のDX化」です。「作業を変える」「育て方を変える」「働き方を変える」という3つのイノベーションを目指し、これらを持続的に支える「人材育成」にも取り組みます。

水産物の輸出促進は、日本の水産業再生の柱と位置付けられています。そこで、世界的に人気が高く販売拡大が期待できる魚として、水産庁はブリを「国際戦略魚」と位置付けています。このプロジェクトにおいても、環境に配慮して育てた完全養殖のブリを「JAPAN鰤」と命名し、持続的に世界に輸出するモデルの構築を目指しています。

あらゆる分野の知識と技術を結集

プロジェクトの一環として高島に開設した「高島水産研究所」。

「ながさきBLUEエコノミー」のミッションは容易ではありません。例えば海を汚さない養殖として沖合養殖という方法がありますが、それを実現するためには、多くの課題があります。浮沈式の生け簀や洋上でのエネルギー獲得のための洋上風力発電、潮力発電技術の開発。さらに海の環境データ収集のための水中のデータ通信技術や、人が頻繁に行けないため自動給餌システム、魚の病気を未然に防ぐための魚の健康診断技術、完全養殖のための人工種苗生産技術などの確立。鮮度を保ったまま輸出を可能にする流通システムの完備等々。水産学はもちろんのこと、海洋工学、情報データ科学、環境科学、社会科学などあらゆる分野の知見と協力企業の技術を結集した“総力戦”が日夜行われています。

薬学部

創薬研究の最先端を行く人間とサメが
創り出す
新薬の未来

最先端の分野に携わることができる、やりがいのある研究です。

谷村准教授(中央)と薬学部の大学院生・ 学部生の皆さん。
ネコザメの皮膚に識別チップを装着したこの日。体長と体重も測定しました。

生物の体を守る生体防御機構である免疫において、人の体内に侵入してきた病原体などに結合するたんぱく質のことを「抗体」といいます。薬学部では、サメが重鎖抗体という特殊な抗体を持つことに注目し、底生サメ、具体的にはネコザメやトラザメの重鎖抗体を活用した抗体医薬品の研究に取り組み、従来のバイオ医薬品に代わる新薬の開発を目指しています。

「創薬の研究では、ラクダ科の動物の重鎖抗体を用いたナノボディと呼ばれる抗体医薬品の研究が多く行われています。しかし、本学には水産学部があり、サメの飼育に適した環境が整っていることから、この挑戦が始まりました。サメを使った研究自体は他にもありますが、ネコザメやトラザメの重鎖抗体に着目した研究は例がないため、解析ツールなど実験系の構築から始める必要があるなど、開発にはまだまだ時間がかかります。しかし、サメ由来ナノボディを創薬に実用化できれば、シンプルな製造工程により、高額であることが課題だったバイオ医薬品を従来よりも安価に作れるようになるでしょう。それに、人間の細胞の内部で薬が作用することで薬の効き目も変わるかもしれません」と研究に携わる谷村進准教授。

がんや認知症などに苦しむ人たちのために、人間とサメが創り出す新薬の誕生が待たれます。 ※バイオ医薬品/多くは、抗体の遺伝子を導入した動物培養細胞を用いて製造する薬。 重鎖抗体とナノボディ/医薬品に使われる抗体は、重鎖と軽鎖からできているのに対して、重鎖抗体は重鎖のみからなり、構造がシンプル。ラクダ科動物の重鎖抗体から、もっとも重要な抗原と反応する部分だけを人工的に取り出して使用するのがナノボディ。

医学部・工学部

外科医も絶賛長崎大学発明の
医療用器具新展開に注目

外科医である私が、自ら特許出願まで動いた印象深いプロジェクト。これからの展開にもご期待ください。

永安 武
永安 武 学長
細かい歯のような鱗で覆われている鮫肌模様を、ピンセットの先端と指があたる部分に加工。臓器表面の薄い膜もピンポイントでつかめる。

鑷子せっしとは、主に手術に使用する医療用ピンセットのこと。 臓器や血管を傷つけないよう、その表面にあるごく薄い膜を優しく、しかし、しっかり持つという相反する性能が求められます。

「鮫肌に似た鱗状の模様を医療に使えないか」。きっかけは、ロボット工学のエキスパートである山本郁夫教授(工学研究科)から永安武教授(当時)率いる長崎大学大学院「ハイブリッド医療人養成コース」へ寄せられた相談でした。永安教授(当時)らは、この構造を鑷子に応用できないかと考え開発をスタート。鮫肌の持つ機能を科学的に再現し、2014年に外科医も驚くほど高い性能を持った「鮫肌鑷子」を完成させ、その構造は特許も取得しました。

そして現在では、この技術を内視鏡の鉗子かんしに応用するなど「長崎大学ブランド」の確立に向けた動きに、熱い注目が集まっています。

※鉗子/物をつかんだり牽引したりする際に用いる器具。手術時に欠かせない医療器具として使われている。
長崎大学魚料理研究会

長崎から魚食文化の活性化を大学サークルが
地域で活躍中

魚料理研究会がレシピを考案した「伊王島日の出カマスと夏野菜のおろしポン酢」。8月に長崎市役所のレストランで提供されました。

皆さんはどのくらい魚を食べますか? 自分で魚を捌けますか? 日本人の魚消費量は年々減り、その理由の一つに、魚を料理するのが面倒ということが挙げられています。日本人の魚離れが進む中、魚食の回復を目指した活動をしているのが、長崎大学魚料理研究会です。魚の捌き方を学び、捌いた魚を調理するほか、地域のブランド魚を使ったメニューの提案や魚をテーマにしたイベント、地域活動にも積極的に参加。会長の祝翔太さんは「活動を通して魚食文化が広がるのを実感します。子どもたちから“魚を捌くのが楽しい”と言われると嬉しいですね」と活動の手応えを語ります。漁獲魚種250種以上で「日本一」と言われる長崎で「長崎市さしみシティプロジェクト」の公認サークルにも認定。“長崎の美味しい魚料理を作り発信し、魚食文化の活性化につなげたい”という目標を目指して熱い活動が拡がっています。

長崎で獲れた魚を皆で捌いて食べる。それが活動の原点です。

子どもたちにどうすれば海の魅力が伝わるのか。考えることが楽しいです。

左)5代目会長 祝 翔太さん(水産学部3年)
右)おさかなあみだの製作者 中地 桃花さん(水産学部4年)
「長崎の旬の魚を知ろう! 食べよう! おさかなあみだ」は、地元の水族館とのコラボ企画。魚のピックアップからメニュー、イラストまで学生が作成しています。長崎で獲れる魚や豆知識を楽しく学べると好評でした。
水産学部

魚はなぜ2つの方向に逃げる?謎を解明する
新たな数理モデル

発表までに10年を要した研究です。実際の魚を使う実験では、マダイの稚魚とカサゴを戦わせました。

河端 雄毅 准教授

食べられそうになった魚が捕食者から逃げる時の方向は複数あり、その中には1番目に好む方向と2番目に好む方向があります。この普遍性の高い現象について、数学的に説明することに成功した河端雄毅准教授。ポイントとなったのは、新たに導き出した数理モデルでした。

「魚が逃げる時に方向転換にかかる時間の違いと捕食者が餌にアタックした後、動きが止まる現象を新たに数理モデルに加えました。数理モデルから導き出したシミュレーションを基に、実際の魚や模型を使って実験を行った結果、捕食者から学習されないよう、複数の逃避方向を使い分けているのではないかという仮説も生まれました。今後、実証実験を行う予定です」。

昆虫や動物の逃避行動にも応用できる汎用性の高い数理モデルであることも実証済み。今後の展望について、河端准教授は続けます。「車と野生動物の衝突回避に応用できる可能性があります。ロードキルの専門家と共同研究を進め、野生動物の逃避行動を完全に予測できるようになれば、自動運転技術の革新にも関係できるかもしれません」。

経済学部

地域経済の視点から水産業の課題を
あぶりだす

演習の最後には、雇用促進用のキャッチフレーズや商品の付加価値を高めるパッケージングなどを提案しました。

高井 計吾
高井 計吾 助教
学生自ら早朝の長崎魚市場へ足を運び、現場の声を聞きました。

魚の水揚げ量や日本人の魚消費量の減少問題は、長崎の水産業にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。まずは課題を知ることが問題解決への第一歩。今後の水産業の活性化と発展に向けた足掛かりになります。

経済学部では、長崎の地域経済が直面している課題をあぶりだし、それらの原因や解決策を見い出す実践的なカリキュラムが充実しています。今年5月から7月にかけて行われた領域演習では、学部2年生が、手作り干物を主力事業とする山道水産株式会社の課題解決に挑戦。長崎魚市場や加工工場等で働く従業員の皆さんにアンケートを実施し、その結果、人材不足の現状とともに、高い加工技術を持つ人材確保の難しさという課題が見えてきました。

多文化社会学部

文献をひも解くと分かる江戸時代の
長崎人は魚好き!?

魚市場の存在は、400年前の長崎の町が指折りの巨大都市であったことを示す、一つの指標にもなります。

木村 直樹
木村 直樹 教授
魚町、今魚町と二度にわたる町名変更を経て、現在の町名になりました。

長崎市中心部に位置するうおまち。町名に“魚”が付くのは、なぜでしょう。「かつてそこに魚市場があったからです。江戸時代初期にあたる1630年頃には存在しており、国内ではかなり早い方だったと思います。当時の長崎は人口だけでなく、人の往来も多く、普段の食事から贈答品まで魚は欠かせないものでした。そのため、多くの種類の魚を扱う市場が成立していたのでしょう」。

研究に用いる古文書や文献の中には、度々、長崎の食文化に関する発見があるとか。木村直樹教授は続けます。「江戸時代に食べられていた卓袱しっぽく料理のメニューを記録した文献を読むと、2月は酢の物にヒラメ、和え物にイカやアワビが使われています。豊富な魚種を誇る長崎の魚食文化は今に始まった訳ではなく、長い歴史の中で育まれてきたのですね」。

チダイ
(長谷川雪香 画)
イシガニ
(萩原魚仙 画)

グラバー図譜

〈日本西部及び南部魚類図鑑〉

長崎に留められたのは偶然か必然か

長崎大学附属図書館が所蔵する貴重資料の一つ「グラバー図譜」。倉場富三郎が、長崎に水揚げされた魚類を絵師たちに描かせた魚類図譜です。なぜ本学に寄贈されたのでしょうか。詳しく紹介したChoho84号をご覧ください。

Vol.86

2024年11月1日発行

「人を結ぶ 地域と繋ぐ」をコンセプトに、長崎大学の思いや姿、描く未来などを共有し、
多くの皆様に長崎大学へ関心をお寄せいただけるような広報紙を目指します。