Research[研究]

鳥が羽ばたくように空を飛ぶ
人間や自然にも優しい
新時代のドローン

2023.07.03 #工学部

肥料散布や物資輸送など業務用のほか、おもちゃ感覚で気軽に購入できるようにもなったドローン。
普及が進む一方で、様々な課題が挙げられています。
鳥や虫など生物の飛行を規範とした「羽ばたき型ドローン」の開発を行っている、永井弘人准教授(工学部工学科構造工学コース)のお話です。

「既存のドローンは、プロペラが回転しながら飛行します。プロペラはとても硬く、小さなドローンでもケガをしたり、建物に傷をつけたり、何かを巻き込む危険性があります。音もうるさいので、現状としては、かなり建物や人から離れた屋外での飛行や、自然環境の中での空撮に限られています。以前は、鳥や虫がどのように羽ばたいているのか、メカニズムについて分からない部分が多かったですが、2000年以降にコンピューターによるシミュレーション技術が発達した結果、研究が進みました。現在は生物の観察や分析から得た着想を、工学的なものづくりに取り入れるバイオミメティクスと呼ばれる研究がさかんです。私たちの研究でも、生物の柔軟な構造を応用し、街中や建物内でも飛行できるドローンの実用化につなげようとしています」。

羽ばたき型ドローンの開発は、九州大学、日本文理大学、株式会社村田製作所との共同研究。現時点では、ワイヤレスでのホバリング飛行や垂直離陸に成功しました。
「軽量化を図るためには、様々な企業の皆さんのご協力が必要です」と永井准教授。
航空宇宙工学が専門の永井弘人准教授。

現在、羽ばたき型ドローンの両翼サイズは18㎝。
材質は不織布を使用しています。
また、機体の重量は20gで、飛行機と同じ炭素繊維で作られているのだとか。
どのような生物を規範にしたのでしょうか。

「ホバリングしながら空中に留まることができる、ハチドリという小さな鳥とちょうど同じサイズです。翼の構造や動き方は、トンボやハチなど昆虫を参考にしています。鳥や虫には、飛行機のような水平を保つための尾翼がなく、傾いた場合は自力で体勢を戻します。風が吹いても、安定して飛べるのがすごいところです。開発中のドローンは、尻尾の部分を前後左右に動かすことでバランスを保ち、30秒間空中に留まることに成功しました。将来的にはホバリングから前進飛行したり、止まったり、下りたりできる自由な飛行を目指しています」。

研究室の学生とともに推力測定実験中の様子。永井准教授の研究室には、大学院生を含む17人が在籍しています。

ハチドリと同じサイズでも、羽ばたき型ドローンの重量はまだその2倍。今後は軽量化が課題だと永井准教授。

「軽くできればカメラやマイクなど色々な物を積めますし、安全性や運動性もアップします。そもそも機械は変形しないように硬く作るものですが、生物は柔らかいから軽いのです。生物に近づけるためには、軽量化した柔軟性のあるドローンを作らなくてはいけません」。

ポケットに入る手の平サイズのドローンが、安全に軽やかに飛び回る未来。
実現した暁には、崩壊しそうな建物内での捜索や、商業施設・教育現場といった不特定多数の人や子どもがいる場での飛行など、様々な用途が期待されています。

  • 永井 弘人
    工学部工学科構造工学コース 准教授

    航空機、大型風車、高層ビルなどの大型構造物は、周りの空気の流れに影響されて変形や振動が発生する場合があります。私たちは、流体と構造など多分野間の相互作用に関する研究と、その積極的利用として、生物のように柔軟な構造を持つ生物型ドローンの研究開発を行っています。