Research[研究]

食べられても逃げる!?
ウナギの捕食回避行動に
ビックリ

水産・環境科学総合研究科の河端雄毅准教授(左)と同研究科博士前期課程2年の長谷川悠波さん。

2021年12月、水産・環境科学総合研究科博士前期課程2年の長谷川悠波さん(当時:博士前期課程1年)と河端雄毅准教授は、国立研究開発法人水産研究・教育機構の横内一樹主任研究員と共同で、ニホンウナギは捕食者のエラの隙間から脱出できるという内容の論文を発表しました。

捕食者であるドンコのエラの隙間からニホンウナギの稚魚が抜け出している様子。実験では、54匹中28匹が抜け出していました。

本研究は、もともと淡水魚好きだった長谷川さんが水産学部4年次に、河端准教授と共に着手。
卒業研究として取り組みました。
河端准教授いわく、国内外にウナギの研究者は多数いるものの、捕食回避行動をテーマにした研究はほぼなかったのだとか。
実験中、捕食者であるドンコに食べられたはずのニホンウナギの稚魚が、水槽で泳いでいるところを見つけた長谷川さん。
捕食の瞬間だけでなく、捕食後もカメラで撮影し続けたところ、ドンコのエラの隙間から稚魚が逃げ出し、生き延びている様子を捉えることに成功しました。
研究成果は、2021年9月の動物行動学会にて発表が行われポスター優秀賞を受賞。
同年12月には国際学術雑誌「Ecology(IF=5.499)」に、論文が掲載されました。
その後、テレビや新聞など、マスメディアだけで20社以上の取材が殺到。
2022年上半期に長崎大学がプレスリリースした研究の中で、もっとも脚光を浴びる結果になりました。
反響の要因や感想について、お二人は次のように話します。
「捕食者に捕獲された後に能動的に脱出する行動は、脊椎動物では世界初の発見であること、写真1枚で一般にも分かりやすい研究であることが評価されたのではないでしょうか。ウナギの捕食回避行動というマニアックな分野に注目していただき、大変ありがたいと思っています。専門家の皆さんや一般の方にも興味を持っていただくきっかけになり、本当に良かったです」。

【動画】『ウナギ脱出行動(Choho80号)』

お二人は、ニホンウナギの捕食回避行動に関する、新たな実験に取り組んでいます。
発表前(取材時)であるため、詳細を明かすことはできませんが、軌道に乗るまで8カ月を要し、現在は興味深い実験データが集まっているのだとか。

長谷川さんは2023年春に前期課程を修了後、後期課程に進学予定。
進学するかどうかとても迷ったそうです。
「昨年、横浜の水産資源研究所で行ったインターンシップ時に、共同研究者の方や職員の方からいただいたアドバイスが、進学を決めるきっかけになりました。また、苦戦していた研究も面白いデータを得られるようになり、2年で終わらせるのはもったいないとも思いました」。

国際行動生態学会の会場では、発表、聴講など充実した時間を過ごした長谷川さん。スウェーデン人の研究者とは約2時間にわたって意見を交わし合い、欧米がウナギ保全の先進地であることも実感したそうです。

この夏、スウェーデンで開催された国際行動生態学会(ISBE)に参加。
ポスターセッションを通じて研究成果を発表するなど貴重な経験も、長谷川さんの研究活動を後押ししています。「動画を見て驚いた研究者の方が、周囲の方にも声を掛けてくださるなど、常に複数人がポスターの周りに集まっている状況でした。海外でも私たちの研究が十分に勝負できること、そして今大会でも大きなインパクトを残せたと実感しています。自信にもつながったので、早く次の成果を発表したいです」。

2022年7月10日に開催された、東アジア鰻学会公開シンポジウム「うな丼の未来9」に招待された長谷川さん。研究者や一般の方を前に講演を行いました。

絶滅危惧種であるニホンウナギ。
捕食回避行動に関する研究から導かれる成果は、放流後の稚魚の生存率の向上など、資源保護の可能性を広げてくれる貴重な情報になるでしょう。
今後の新発見にも期待が高まります。

  • 河端 雄毅
    水産学部 水産学科 海洋資源動態科学講座 准教授

    食う・食われるの関係について、行動学の視点から研究を進めています。現在の主な研究テーマ次のとおりです。

    1. 動物の被食回避行動に関する研究:観察・数理モデル・操作実験・種間比較・系統進化
    2. 動物の獲物追跡戦術の解明