Research[研究]

第2回 地域医療ネットワークの最前線

研究 2025/05/15

本稿は2025年5月15日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

へき地医療支援の取り組み

 離島振興を図る法律の対象となっている全国の有人離島305島の内、長崎県内には51島が存在し、県人口の8.61%に当たる11万3056人が暮らしています(2020年国勢調査)。離島の高齢化率(65歳以上人口の占める割合)は実に40.8%にも上りますが、高齢化が特に進んだ小集落が点在している地域特性や限定的な公共交通機関によって、高齢患者の医療アクセスが社会課題となっています。

 長崎大学は、2004年に長崎県と五島市の寄付講座「離島・へき地医療学講座」を開講し、離島における活動拠点として長崎県五島中央病院内に離島医療研究所を設置しました。2013年に五島市に設置した予防医科学研究所と共に地域医療に関する教育と研究、そして診療支援に当たっています。この活動の一環として、五島市や企業、地元医師会等と連携して情報通信技術(ICT)やドローンなどの先進技術を使ったへき地医療支援の取り組みを進めています。

オンライン診療を丸ごと患者さんへ届ける

 ICTの目覚ましい発達によって、距離を意識することなく手軽に多様なコミュニケーションが可能な時代となりました。ICT機器を使って医師と患者さんの間で行われる遠隔医療のことをオンライン診療と呼び、地域医療の現場で活用が進んでいます。

 私たちは、離島・へき地の医療アクセス問題を解決するため、看護師が患者さんをサポートしながら遠隔の医師につなぐタイプのオンライン診療、いわゆるDoctor to Patient with Nurse(D to P with N)に着目しました。そして、デジタル田園都市国家構想プロジェクトの一環として、D to P with Nタイプのオンライン診療を丸ごと、へき地の患者さんに届けるモバイルクリニック事業に、五島市と一緒に取り組んでいます。

医療機器を搭載したモバイルクリニックの車両

 オンライン診療用の通信システムと医療機器を搭載したマルチタスク車両に看護師が乗車し、患者さんの自宅付近まで赴きます。そして、この車両に乗り込んできた患者さんに、看護師がバイタルチェックをしながらオンラインで医師へつなぐ仕組みです。2023年1月に運用を開始しましたが、徐々に利用する患者さんが増え、2025年2月末時点で延べ540回のオンライン診療を実施しています。

オンライン診療×ドローン物流

 また、オンライン診療にドローン物流を組み合わせることで、より利便性の高い医療を提供するシナリオも考えられます。私たちは五島市に設立されたドローン物流会社であるそらいいな株式会社と連携して、オンライン診療・服薬指導とドローンによる医薬品搬送を組み合わせた実証試験に取り組んでいます。2025年2月には、最も難易度の高いレベル4飛行(有人地帯の目視外飛行)とモバイルクリニックを組み合わせることで、オンライン診療の現場にリアルタイムで処方薬を届ける実証試験に成功しました。


 ICTや遠隔医療は、医療資源が限られた地域に新たな可能性をもたらしています。長崎大学は、専門性と先進的な医療技術を生かしながら新たなテクノロジーを導入し、利便性と安全性のバランスを追求しつつ新たな医療ネットワークの構築に貢献していきたいと考えています。

研究者情報

医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 寄附講座 離島・へき地医療学講座

前田 隆浩(まえだ たかひろ) 教授

関連リンク

離島医療研究所