Research[研究]
本稿は2024年8月15日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。
大学の研究は企業にとっては宝の山
今回は、まだ耳新しいURA(ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター)という仕事と、産学連携の実例をご紹介します。
URAとは、大学等の研究機関において、補助金申請の支援などに取り組む戦略職員で、その役割の一つとして、産学連携、共同研究のアレンジがあります。
現在、日本の技術力の低下が危惧されています。技術を支える企業の研究開発費も、バブル崩壊以降、伸び悩み、米国、中国との差が拡大しています。(右グラフ)
そこで重要になるのが、産学連携です。しかし、「企業の総研究費に対する大学への拠出割合」を見ると中国やドイツが3%台半ばなのに対し、日本は0.5%弱にとどまっており(下表)、企業と大学の連携は不十分と言わざるを得ません。
では、産学連携はどう始めるのでしょうか?研究者にとって、学会が接点になることもありますが、自分で共同研究する企業を探すのは、一般的にはハードルの高い仕事です。そこで求められるのがURAです。大学での研究を企業に(時には逆も)紹介し、間を取り持ちます。プロアスリートと代理人の関係にも似て、宝探しの面もあります。実際、私が長崎大学に着任して感じたのは、長崎大学の研究が企業にとっても宝の山だということでした。
金属疲労の研究が半導体に生かされる
例えば長崎大学工学部に小山敦弘准教授という、金属疲労の研究をしている先生がおられます。
金属疲労とは、昔、飛行機の墜落事故で知られるようになりましたが、金属に何度も力がかかることで内部に小さな亀裂が生じ、広がり、ある時に一気に壊れ大事故を招く現象です。小山准教授は、その小さな亀裂を観察するシステムを研究していました(本稿末尾の事例参照)。半導体とは一見離れた研究です。
8月2日 佐世保工業高等専門学校の教員に内部欠陥観察システムに関する研究を説明する小山准教授(写真中央)
半導体に目を向けると、台湾の半導体メーカー、TSMCの熊本進出以降、九州が注目され、長崎大学も半導体人材育成や産学連携に懸命に取り組んでおりますが、実は長崎大学に半導体の研究者はあまり多くありませんでした。しかも、「半導体はナノ(1万分の1ミリ)の勝負」と言われ、とんでもなく小さな世界を作る技術競争になり、日本は競争に遅れているとすら言われます。
しかし、実はもう一つの技術競争が行われているのです。それは、半導体を縦に積み上げる競争です。横幅を小さくする競争だけでなく、高層ビルを造るように縦に高性能の3D半導体を作るのです。日本は世界においてその技術競争の先頭を争っており、長崎にはその主役企業の工場もあります。
ただ、新技術には新しい課題が付きもの。半導体を積み上げたときに生じる内部欠陥の検査は、世界中の半導体メーカーの課題となっています。その課題に対しある企業に小山准教授の亀裂観察システムを紹介したところ、「3D半導体の内部検査に使えるかも!」という驚きの声が上がりました。今、小山准教授はこの企業と共同研究を始める準備を進めています。金属疲労の知見が半導体に生かされる、珍しい事例となるかもしれません。
これが産学連携の現場です。宝はまだまだあります。長崎の未来は可能性に満ちています。
小山准教授の内部欠陥観察システムでアルミ合金内に進展した亀裂先端を観察した事例
執筆者情報
長崎大学 総合生産科学域 URA
総合生産科学域マイクロデバイス総合研究センター
池田 光明(いけだ みつあき)