Research[研究]

第3回 再生可能エネで沖合養殖

研究 2023/06/20

本稿は2023年6月15日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

潮流発電用に開発されたタービン

実験水槽内で回転する様子
実際の潮流で回転する様子
沖合にある再生可能エネルギー?

  今回は、「JAPAN鰤(ぶり)」を沖合で養殖するための、再生可能エネルギーの利用についてご紹介します。沖合養殖を大型化するためには、洋上で電力を確保する必要があります。浮下式いけすを動かすこと、餌を与えること、魚の生育状況をモニタリングすること、全てに電力が必要です。しかし、沖合の海には電源コンセントがありません。また、これからは、CO2排出を抑えたものでなくては、商品としての価値が上がりません。養殖で育てる魚についてもカーボンフリーのエネルギーで育てる必要があります。そこで、沖合養殖に用いる電力を再生可能エネルギーで賄うことにしました。再生可能エネルギーには、太陽光や風力などがありますが、天候に依存した発電は不安定です。その点、海にある潮の流れは、約6時間ごとに必ず生じますので、安定したエネルギーと言えます。また、未来の潮の流れを正確に予測できるという特徴も持っています。自然エネルギーの中でも、最も安定かつ予測可能なエネルギーなのです。

現在、長崎大学ではこの潮流エネルギーを使った発電システムを開発しています。潮の流れの中にタービンと呼ばれる羽根車を置いて、回転エネルギーを利用して発電します。潮の流れは時間とともに変化しますので、流れが速いときも、遅いときも、流れをきっちり捉えて回転してくれるタービン設計が大切になってきます。しかし、これまでのタービン設計法は、ある一定の流速条件で最高効率となるように設計されていました。潮流タービンの場合、流速が時間とともに変化するので、従来の設計法では効率の良いタービン設計はできません。

これまでにない特性のタービンの設計法

そこで、コンピュータに自動設計させるという最先端のタービン設計法を適用しました。遺伝的アルゴリズム(「遺伝と進化」の仕組みを真似て、より最適に近い選択肢を探していく手法)と人工知能を組み合わせ、コンピュータが考えながら様々な流速条件で効率よく回転するタービン形状を検討し、最適な形状を自動的に設計するというシステムです。この新しい設計法を利用して“どんな流速でも良くまわる潮流タービン”を設計することができました。

この潮流タービンは、沖合養殖の発電に利用するだけではありません。海況観測のためのスマートブイ(下図参照)としても便利に使うことができます。スマートブイとは、海に浮かべたブイに計測センサーや、インターネットへデータ送信するため電子機器を搭載したものです。ブイの真下に取り付けた潮流タービンにより電力供給を行うことで、バッテリー交換をすることなく、長期間の定点観測を行うことができます。五島の奈留漁協に協力してもらった実験では、海水温度、潮流速度、GPS情報、発電量、そしてカメラによる海面の様子などを観測し続け、大学の研究室から五島の海をリアルタイムで確認できるようになりました。

沖合養殖では、魚の様子を見に行くことが難しくなることが予想されます。スマートブイを利用して、タブレットなどで魚の生育状況を確認しつつ、必要な時にだけいけすへ船を出す、そんな未来の世界が近づきつつあります。

京セラ株式会社様と共同開発した
 潮流発電技術を利用した海洋データ収集システム

IoT×潮流発電=海の見える化 エナジーハーベスト型スマートブイ

研究者情報

長崎大学 海洋未来イノベーション機構 副機構長 

                 工学研究科長

坂口 大作(さかぐち だいさく)

プロフィール

関連リンク

 海洋未来イノベーション機構HP

「ながさきBLUEエコノミー」HP