Feature[特集]

日々進化する遺伝子解析と診断技術

特集 2023/04/20

長崎大学病院の小児科に勤務する伊達木澄人准教授は、小児内分泌代謝が専門。外来・入院診療と研究活動に取り組んでいます。
「小児内分泌代謝は、低身長などの成長障害や甲状腺の病気、糖尿病、骨系統疾患、代謝性疾患など、さまざまな病気が含まれます。患者さんの幅は広く、何万人に一人の希少疾患を持っている方も少なくありません。通常の診察に加えて、遺伝子解析など検査を行って診断し、病態を明らかにしていきます」。

遺伝子解析技術は向上しているのですか。

「この10年でかなり向上し、多くの遺伝子を網羅的に調べられるようになってきました。また、保険適用となった対象疾患も増えてきています。2年前に臨床遺伝専門医という資格を取得したのは、遺伝カウンセリングを通じて、遺伝子検査に関する患者さんのご家族の不安や疑問に対応するためでもあります。しかし、最新技術をもってしても、原因を解明できない疾患が多々あるのが現状です。例えば、私が医師になって初めて担当した患者さんは先天性の下垂体機能低下症という病気で生まれてきましたが、20年以上経った現在もその原因は分かっていません」。

いずれにしても、診断をつけることが大切なのでしょうか。

「そうですね。診断がつけば新しい治療法につなげられるかもしれません。治療法がなかったとしても、将来起こり得る合併症や予後といった情報を得られます。患者さんご本人やご家族にとって安心材料になるのです。一般的に小児科の対象年齢は中学校卒業頃までと言われますが、私の場合は長いお付き合いになる方が多いですね。より多くの治療法や健康管理につなげられるよう、診療時の発見を研究につなげ、そこで得た知見をフィードバックしていきたいです」。

診療の合間を縫って研究に励む伊達木先生。海外では、顔写真を用いたAIによる希少疾患診断が行われています。この技術が日本人にも有効かどうか検証を進めています。
伊達木先生が主治医を務める秋山大輝さん。骨が折れやすい「骨形成不全症」という疾患を持って生まれてきました。15歳(取材当時)に成長した現在も、伊達木先生の診察を受けています。

医師を目指す学生の心にも響きそうな話です。

「小児科は幅が広く、限られた時間ですべてを伝えるのはなかなか難しいですね。興味を持ってもらえるよう、症例ベースで話すようにはしています。保健学科や歯学部、教育学部でも講座を持っているんですよ。教育学部では保育士を目指す皆さんに、見逃してはいけない子どもの病気や、教育現場で気づけることなど、栄養の観点から講義を行っています」。

伊達木 澄人 准教授 / DATEGI Sumito

長崎大学医学部卒業後、長崎大学病院小児科に勤務。研修医時代の経験から内分泌代謝に関心を持つ。国立成育医療研究センター研究所で国内留学や米国留学などを経験

担当講義

小児系講義(医学3年)/隣接医学Ⅱ(小児科学)(歯学・薬学3年)/こどもの栄養(教育2年)他

伊達木先生から一言

遺伝子解析から明らかになることはたくさんあります。行きつくところは稀な病気であったとしても、しっかり診断をつけて、その後の健康管理に役立てることが目標です。信頼関係を築いて患者さんに寄り添える、やりがいのある仕事です。