Research[研究]
本稿は2023年4月20日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。
長崎県水産業の「いま」
海に囲まれた長崎県において、水産業は主力産業(生産量は全国2位、生産額は全国3位)ですが、現在非常に厳しい状況におかれています。とる漁業と養殖業を合わせた生産量と生産額のピークは、それぞれ1979年に99万トン、1984年の2,259億円でしたが、いずれも2020年には25万トン、893億円まで落ち込みました。この原因には乱獲や環境変動による生物資源量の減少と種の変化などが挙げられますが、それ以外にも深刻な問題があります。それは、漁業者の高齢化と後継者不足です。これは、若者が水産業を就職先としていないことの表れであり、作業負担が大きい、収入が安定しない、自由な時間が取れないなど、若者が魅力を感じる産業と相反する現状にその理由があります。水産を主要産業とする長崎県において、この現象は地域活力の低下に繋がっています。このような状況を打破するためには何をすべきでしょうか。国も長崎県もとる漁業から養殖業に主軸を移し、生産した養殖魚を国内だけではなく、海外へも販売することによって収入を上げ、水産業の再生を目指そうとしています。長崎大学も長崎県の活性化には養殖を柱とした新たな水産海洋産業の創出が必要であると考えています。そこで大学を上げてこの問題に取り組むためのプロジェクトを計画しました。それが “「ながさきBLUEエコノミー」海の食料生産を持続させる養殖業産業化共創拠点” です(令和5年科学技術振興機構(JST)事業「共創の場形成支援プログラム」に採択。下図参照)。この事業では水産業再生と地域活性化に向けて、「作業を変える」、「育て方を変える」、「働き方を変える」の3つの視点から技術開発を進めます。
「作業を変える」、「育て方を変える」、「働き方を変える」の3つの視点から技術開発?
「作業を変える」では、生産者の作業負担を軽減し安定した養殖を行うため、海や魚の様子をモニタリングするシステムや洋上で使用する電源確保のための潮流発電の開発などを進めます。また、養殖場の拡大に向け、波の荒い沖合でも養殖可能な浮下式いけすの導入も促進します。
「育て方を変える」では、海外への養殖魚販売も視野に入れ、環境に優しく安全・安心な魚を作る養殖技術の開発を目指し、養殖するための稚魚(種苗)を人工的に生産する技術、病気を未然に防ぐ海と魚の健康診断技術、高成長・低コストの餌の開発などを行います。
「働き方を変える」では、生産した魚の地産地消を目指します。高度な養殖技術を開発しても、魚が売れなければ水産業も地域も活性化しません。そこで長崎県の人が今以上に魚を消費し、さらに観光客にも提供する環境を作るため、その柱となる商業施設(長崎マルシェ)も必要だと考えています。
長崎大学ではこの事業を、長崎県や県内の自治体、協和機電工業をはじめとする県内外の企業、長崎総合科学大学、活水女子大学、高知大学と連携して実施します。これは、これまでに例のない産学官が一体となった長期に亘るプロジェクトであり、長崎県の水産業の未来に必要不可欠な取り組みです。
研究者情報
長崎大学 海洋未来イノベーション機構 機構長
「ながさきBLUEエコノミー」プロジェクトリーダー
征矢野 清(そやの きよし)