Research[研究]

第8回 新たな魚病対策の研究

研究 2023/11/16

本稿は2023年11月16日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

ながさきBLUEエコノミー

養殖魚の病気による被害

 魚も私たち人間と同じように病気にかかることがあります。今回は、養殖されている魚での病気の現状や、どのような治療法や予防法があるのか、また新たな魚病対策の研究について紹介します。

 養殖魚の病気の被害額は、魚の病気の研究が進すんだことで投与が可能となった治療・予防薬の普及・使用により、1990年代中頃の約300億円をピークに被害額は減少していき、2000年から2020年には年間100億円前後で推移しています。

 農林水産省が発表している2020年の推定被害額が10位までの魚種の合計生産額は2971億円であり、これら魚種の病気(1〜3位)による合計推定被害額は106.9億円となっています。この合計推定被害額の内訳は、合計生産額が5位までの魚種である、ぶり類、ふぐ類、うなぎ、まだい、くろまぐろで83.3%(89億円)を占めています(図1)。養殖魚の病気被害額を減らすためには、この合計生産額が5位までの魚種に対して有効な対策が必要となります。

 これら推定被害額の大きい魚種がどのような病気にかかっているのでしょうか?2016年から2020年の推定被害額が5位までの魚種が発症している病気の種類(1〜3位)毎の被害額割合をみると、80%前後が細菌感染症で占められていることが分かります(図2)。

 養殖魚の病気対策

 人間と同じように細菌感染症の治療には、水産用医薬品の承認事項に従って抗菌剤を飼料に混ぜるなどの投薬で治療します。しかし、抗菌剤の多用は薬剤耐性菌を出現させるリスクがあるため、2018年から抗菌剤の適正使用が厳格化され、養殖魚の病気対策は抗菌剤の治療からワクチンによる予防へ移行しています。

 水産用ワクチンの合計販売高金額は、2005年と2020年を比較すると約2.3倍となっており、治療から予防の時代になっていることが分かります。同様に抗菌剤の合計販売金額を比較すると1.5倍となっており、使用量が減っていませんが、推定被害額が一番高いぶり類の細菌感染症であるレンサ球菌症に使用が許可されている抗菌剤を除くと0.7倍と減少しています(動物用医薬品販売高年報より算出)。

 レンサ球菌症用の抗菌剤が増えている原因は、ワクチンの予防効果が低い細菌株の出現です。この対策として、新たな細菌株に対応したワクチンを開発することも大切ですが、従来とは違う病気の対策も必要です。

 ながさきBLUEエコノミーでは、新たな病気の対策として、発症前の状態である「未病」を早期に察知し、超早期治療を可能にする未病診断法の研究を行っています。具体的には、「健康」から「発症」までの魚体内での変化を検出するため、細胞間での情報伝達の役割を持つ微細な生体物質の解析などに取り組んでいます。

 未病診断法を確立すると、餌止めやビタミン剤の投与などの対策で発症を未然に防ぐことが可能となります。また、微細な生体物質は体外にも放出されていることが報告されており、飼育海水に存在する微細な生体物質を解析することで、養殖海域全体の健康診断へと展開することも目指しています。

※1 主要魚種別魚病被害の推移:農林水産省「魚病被害の発生状況に関する情報」より引用

※2 推定被害額=(農林水産統計による生産額÷調査経営体の生産額)×調査経営体の被害額

※3 動物用医薬品の販売高データ:動物医薬品検査所「動物用医薬品等販売高年報」より引用


研究者情報

長崎大学 総合生産科学域(水産学系) 教授

ながさきBLUEエコノミー 魚と海の健康診断技術開発課題リーダー

菅 向志郎(すが こうしろう)

関連リンク

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