Research[研究]

第3回 国際連携で医療課題に挑む

研究 2025/06/19

本稿は2025年6月19日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

地域医療の問題は世界各国でも

 日本の薬学部では、共通の薬学教育カリキュラムに基づいた教育に加え、各大学が立地する地域ごとの医療課題に対応するため、特色ある教育を展開しています。長崎県は多数の離島を抱えており、高齢化率が高く、医療機関へのアクセスが困難である上、医師や看護師も不足もしています。このような地域は、今後の日本社会が直面する問題を先取りしており、薬剤師はより幅広い役割が求められます。私たちは、薬剤師教育を通じてこのような医療課題を解決することで、地域の健康を支え、質の高い医療へ貢献したいと考えています。

 地域医療の問題は日本に限らず、アメリカやオーストラリアなど世界各国でも同じです。例えばアメリカでは、薬剤師が処方やワクチン接種、予防医療を担うことで、課題解決を目指しています。一方で、日本の医療制度や薬剤師の取り組みが他国の課題解決に役立つこともあり、各国の薬剤師の役割や医療システムを、国境を越えて相互に学び合うグローバルな連携が求められています。本学薬学部では、学術交流協定を締結しているアメリカのニューメキシコ大学薬学部と連携し、さまざまな地域医療教育の取り組みを行っています。

他国の薬剤師の活動を互いに学び、実践する

 第一の取り組みは、予防医療の教育です。日本でも予防医療が重要視されていますが、薬学生や薬剤師が関わる機会や教育は不足しています。そこで私たちは、ニューメキシコ大学で行われている心房細動の簡易測定活動を日本の法制度に適合させた実践的な教育プログラムを開発し、全国に先駆けて実施しています。心房細動は心房という心臓の上の部屋が細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気で、放置すると、寝たきりとなる原因の第1位と言われる脳卒中を発症するリスクが高まるのです。

 本教育プログラムでは、薬学生と薬剤師が地域の皆さまの心房細動の簡易測定を行い、早期発見と予防の重要性を啓発することで、健康寿命の延伸を目指しています。2024年2月には、新上五島町の健康フェア会場でも活動を行い、約70人もの方にブースへ足を運んでいただきました。島民の皆さまと直接接し、離島医療の一端に触れる実践的な体験は、学生にとって将来の仕事にもつながる貴重な機会となりました。

 第二の取り組みは、ニューメキシコ大学の学生が長崎の離島で日本の医療を学ぶことです。この取り組みは、彼らが自国の医療を改善するヒントを得るだけでなく、長崎の医療現場にとっても新たな視点をもたらします。また、長崎大学の学生も国際的な視野を広げる機会となり、将来、日本の地域医療だけでなく、世界の医療にも貢献できる薬剤師となることが期待されます。

地域にお住まいの皆さまと共に

 これらの取り組みは、学生だけでなく、地域の薬剤師や長崎大学病院、上五島病院など、地域全体の医療関係者が一体となって行っています。地域にお住まいの皆さまにご協力いただくことで、実践的な学びの場が生まれ、より質の高い医療提供体制の構築につながっています。長崎大学薬学部はこれからも、教育を通じて地域医療の課題解決に取り組み、地域の皆さまが安心して暮らせる社会を目指したいと思います。

研究者情報

長崎大学薬学部育薬研究教育センター

都田 真奈(みやこだ まな) 教授

関連リンク

長崎大学薬学部