Research[研究]

第4回 可視光レーザーで水中光通信

研究 2023/07/20

本稿は2023年7月20日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

■「水中光無線通信装置について」(株)島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/products/enviro/underwater.html

海中のデータ通信 “可視光レーザーを用いた水中光通信方式の必要性”

 ながさきBLUEエコノミー で生産する「JAPAN鰤(ぶり)」は、海洋への環境負荷を低減することを目的として海水の循環が良い沖合の海中いけすで養殖することを想定しています。そのため海中で飼育しているブリの生育状況を定期的に観測する必要があり、機動性の優れた水中ロボットを利用した、飼育情報や水温、潮の速度といった海中環境の情報収集が必要となります。

 この水中ロボットの動作制御は、空気中では電波を利用する無線通信方式の遠隔操作を利用していますが、水中では電波が減衰し伝わりにくくなるため、一般的に有線方式による遠隔操作が用いられています。しかし、有線方式の水中ロボットでは操作ケーブルが水中で抵抗となり機動性が損なわれること、養殖いけすの周りに配置されるいけすを固定するための係留ロープや浮沈させるために必要な係留ロープ群と干渉し操作ケーブルが破損すること、さらに係留ロープにロボット本体が絡まってしまう等の事故が想定されます。

 これらを回避するための方策として、ながさきBLUEエコノミーでは海中で自律航行が可能な水中ロボットの開発と水中と水上の間を双方向にオンラインで結ぶデータ通信装置の開発に着手しています。水中通信の無線化技術の開発は、近年盛んになってきています。その通信手段としては、クジラの会話で知られているように、水中でよく伝わることがわかっている音響を利用した水中音響通信が実用化され、現在主流の無線通信手段となっています。

 しかし、この水中音響を利用した無線通信方式は、高速化が試みられてはいるものの、海中の雑音、ドップラー効果の影響(音源または、観測する観測者が動いている場合、音源が発する振動数と観測する振動数が異なって聞こえる現象が起こるため、情報が正確に伝わらない。)により,例えば動画を安定的に伝送できるほどの通信速度は実現できていません。

島津製作所が保有する可視光レーザー?

 そこで、ながさきBLUEエコノミーでは参画企業である(株)島津製作所が保有する可視光レーザー([SHIMADZU] 島津の磁気探知器/磁力計)を用いた水中光通信方式(製品名:水中光無線通信装置「MC100」「MC500」)を利用した飼育情報や海中環境の情報収集技術を共同で開発することに着手しています。通信データ量が同じ場合、レーザー光を用いた水中光通信は、水中音響通信と比べると1000倍以上の通信速度が実現可能でかつ少ない電力量で済むため、高速化、低消費電力化が図れる利点があります。

 一方、利用するレーザー光が海中の生物に与える影響は、まだ未解明の部分があるため、水中通信へのレーザー光利用の安全性を担保するための基礎研究を長崎大学が中心となって進めていく計画になっています。また、自律航行型のデータ収集ロボットの高度な利用を図る上で重要な水中光無線通信基地(水中のWi-Fi基地局)の技術開発を連携して進める計画です。

 少し先の未来では、この可視光レーザーを利用した自律航行型水中ロボットの運用技術と分析技術と組み合わせた「海の健康診断」(環境DNAを利用した、疾病予測や赤潮予測)の実現を目指しています。

                 水中光通信イメージ図:(株)島津製作所HPより引用

研究者情報

長崎大学 海洋未来イノベーション機構コーディネーター

「ながさきBLUEエコノミー」副プロジェクトリーダー

室越 章(むろこし あきら) 

関連リンク

海洋未来イノベーション機構HP

「ながさきBLUEエコノミー」HP