Research[研究]

豊かな生活の基盤になる
眠りの価値を見つめ直す

2024.07.01 #医学部
近藤先生は睡眠・覚醒障害分野のエキスパート。一人一人の症状に丁寧に耳を傾け、正確な診断と治療につなげます。

皆さんの睡眠への満足度はどのくらいでしょうか。
世界睡眠調査2024によると日本人の睡眠への不満足度は40%で調査対象13か国中、ワースト1位だったそうです。
また、OECDの調査でも、加盟国30か国中で日本人の睡眠時間は平均7時間22分でワースト1位だったとのこと。
これらのデータから分かるように、日本人は睡眠の質、時間共に問題があり、睡眠障害は現代の「国民病」とさえ言われることもあります。
今年6月には厚生労働省が、医療機関が掲げることができる診療科に「睡眠科」を追加する方針を示しました。
そして、睡眠の向上に関しては、長崎大学でも研究や診療が進められていることはご存じでしょうか。

2023年4月、長崎大学病院に睡眠・覚醒障害外来が開設されました。
すべての年齢層の多様な睡眠・覚醒障害患者に対応できる、県内唯一の医療機関として注目を集めています。
総合診療科の専門医でこの外来を担当する近藤英明先生にお話を聞きました。
「最初の患者さんは、30年程前、私が長崎大学病院の内科医だった頃、研修医が睡眠時の無呼吸に気づいた肥満患者でした。 当時、身体に直接装着して脳波等を計測する睡眠検査は、長崎大学病院では初めての試みでした。 その後、閉塞性睡眠時無呼吸に対するCPAP療法は1998年に保険適用となり、広く治療も行われるようになりました。 睡眠・覚醒障害の治療薬も臨床で使用可能となったほか、さらに不眠症に対する認知行動療法といった薬に頼らない治療法も確立されてきました」。

睡眠・覚醒障害外来が立ち上がって1年、これからも睡眠問題を抱える皆さんに寄り添った診療を行っていきます。

外来診療と並行して取り組んでいるのが、各世代を対象にした睡眠調査。
近藤先生は小学生から大学生、妊婦、行政職員、大規模な食中毒事件の患者さんなど幅広い調査実績をお持ちです。
「例えば子どもたちの不登校と睡眠問題には、どのような関連があるのか。 解明につなげるための前段的な取り組みとして、子どもたちの睡眠障害について問題を感じていた中山小児科クリニックの中山裕介医師と長崎市内の中学校で睡眠調査を行いました。 生徒の皆さんには睡眠に関する質間に加えて、うつや不安感に関する質間にも答えてもらいました。 本格的な解析はこれからになりますが、朝すっきり起きることができず、だるさを感じている生徒さんや、就寝時に脚がむずむずするレストレスレッグス症候群が疑われる生徒さんが多い印象です。睡眠・覚醒障害の要因や症状は多岐にわたりますので、いち早く問題を発見し、それぞれに応じた対処を考えなくてはいけません」。

近藤先生とポリソノムグラフィー検査を担当する検査技師の皆さん。

どの世代にも起こり得る睡眠・覚醒障害。
睡眠レベルの向上を日指す取り組みの一方で、受け皿となる医療体制について課題を感じている近藤先生。
「日本ではこの分野の標準治療が、まだまだ浸透していません。これまでの医学教育の中で十分な卜レーニングが行われてこなかったことが、要因の一つと言えるでしょう。そのため専門医の育成が喫緊の課題です。また、睡眠・覚醒の問題にお困りの方々が医療情報にアクセスでき医療につながる仕組み作りも必要です。当院では、離島在住の方にも医療を提供できるように、初診からのオンライン診療を含めた診療体制づくりも推進しています」。

  • 近藤英明
    長崎大学病院 総合診療科 睡眠・覚醒障害外来 助教

    1990年長崎大学医学部卒業、同年同大学医学部附属病院第一内科入局、1996年より睡眠障害の診療に携わる。秋田大学医学部精神科で睡眠・覚醒障害診療の研鑽をつみ 、済生会長崎病院、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS波)准教授などを経て、2023年より現職。