


ルールや価値観が異なる海外では
予期しないハプニングに直面することもあるでしょう。
しかし、そういうチャレンジの繰り返しの先に
今までなかった新しい自分が見えてきます。
今号では、留学を通して他国の文化や習慣を学び、
自身の大きな強みとした卒業生や在学生、
さらに海外から本学に留学中の学生にお話を聞きました。
自身の大きな強みとした卒業生や在学生、
三者三様の体験をご紹介します。
ルールや価値観が異なる海外では
予期しないハプニングに直面することもあるでしょう。
しかし、そういうチャレンジの繰り返しの先に
今までなかった新しい自分が見えてきます。
今号では、留学を通して他国の文化や習慣を学び、
自身の大きな強みとした卒業生や在学生、
三者三様の体験をご紹介します。
実感がなかった
「世界」を自分の目で見て確かめる

(2020年1月~3月、2021年9月~2022年6月) 古河電気工業株式会社に勤務。洋上風力発電向けのケーブルや付属品の販売、設置などの営業を担当されています。この春には入社3年目を迎えます。
福岡県田川市で生まれ育った武田さんにとって、海外はテレビで見るだけで実感のないものでした。
カッコいい。そんな憧れはあっても、実生活と結び付く機会はありません。
「世界で起きていることを自分の目で確かめたい。大学生になったら留学したい」。
強い信念を持って本学に進学し夢の実現に向けて準備を進める中、予期せぬさまざまな問題に直面します。
自身の性格を「頑固で負けず嫌い」と分析する武田さんは、どのように壁を乗り越え成長したのでしょうか。
両親は留学に反対!プレゼンで説得を試みる
最初の壁は留学に反対する両親の説得でした。
「なぜ留学をしたいのか、PowerPointにまとめて両親にプレゼンしました。良い高校に行けば良い大学に行ける、良い大学に行けば良い企業に就職できる。でも自分が思うより世界は広く、留学してもっと視野や価値観を広げたい。そう説明し、留学費用の返済計画も示しました。このプレゼンが功を奏し、両親もなんとか了承してくれました」。
留学先にベルギーの大学を選んだのは、ヨーロッパの中心に位置し、EU本部があるから。
さまざまな国籍の人たちと交流できると考えたそうです。
ところが滑り出しは順調とは言えませんでした。
「日本にいる時は英語ができる方だと思っていたんです。実際はまったく違いました。授業にも他国の留学生との会話にもついていけず、一緒に留学した友人と自分を比べる毎日でした。英語ができないと思われているんじゃないかと疑心暗鬼になり、授業中に泣いたこともありました。何を言っているのか分からないのに、作り笑いをしている自分が嫌で嫌で悔しかったです」。
折しも、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めていた頃でもありました。
渡航3カ月後、大学から帰国を促され、あえなく帰国の途に。
踏みとどまって頑張るという決意も、その志半ばで閉ざされてしまいます。
目的を達成するまで大学は卒業できない
復学しても長崎には住む家もない武田さんは、大学に直接交渉をします。
西町にある、留学生向けの居住施設「国際交流会館」への入居を願い出たのです。
「留学するために長崎大学に来たんです!」、「留学するまで大学は卒業できない!」という熱意ある訴えを大学もくみ取り、入居を許可。
留学生と生活を共にする中で、英語を使ったコミュニケーションにも自信が持てるようになったといいます。
そして、新型コロナウイルスが終息する気配はなく、留学を諦め、就職活動に専念する友人たちも出始める中、武田さんはご両親に二度目の説得を試みます。
「再び留学する場合、卒業が1年遅れることになるので、やはり両親は反対でした。けんかになってしまったので、今度は自分の考えを整理し、文章にまとめて読んでもらいました」。

二度目の留学もベルギーへ。
大学院生に交じってマーケティングを学ぶ武田さんに不安や迷いはありませんでした。
そんな時、大きなトラブルに見舞われます。
「旅行先のメキシコでパソコンを盗まれてしまい、帰国後に向けて行っていた就職活動のオンライン面接を受けられなくなったんです。さすがにパニックになりました。それを助けてくださったのが、経済学部の丸山真純先生です。キャリアデザイン/キャリア教育がご専門で多文化社会学部の白井章詞先生を紹介してくださいました。先生との対話を通じて気持ちを整理することができ、海外留学経験を生かすことができる企業を紹介していただきました」。
帰国後、日本を代表するグローバル企業2社から内定を獲得。
白井先生が企業にお話を聞いたところ、武田さんの行動力とバイタリティーを非常に評価されていたそうです。
留学を通じて世界に身を置いたことで、もともと持っていた信念の強さが、社会に出ていくための自信となり、成長につながったのでしょう。
武田さんは最後にこう言いました。
「私は自分の目で見たことしか信じないと自分に言い聞かせています。だから積極的に世界に身を置き、殻を破ることができました。世界中に友人ができたので、これからも広い視野を持ち続けながら、世界を見ていきたいと思います」。
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応援者からのメッセージ
父・武田 健一さん留学に反対したのは、手の届かない所に行ってしまうような寂しさと、新型コロナウイルスのこともあったので、「もし何かあったら」という不安が大きかったからです。
二度目の留学の時には「他にも学ぶ方法はあるのではないか」と責めたことを反省しています。
「広い世界に身を置いて今しかできない学びに挑戦したい」という強い思い、理解してもらいたいと真っすぐに向き合おうとする姿に、我が子ながら敬服しました。
彼女は大きく成長しました。既成や慣習にとらわれず、柔軟に物事を見て判断し対応する力を伸ばすことができたからでしょう。
それは「広い世界」からこそ学ぶことができるものだと思います。見守りながら、親としても成長させてもらったことをありがたく感じています。 -
応援者からのメッセージ
キャリアセンター(多文化社会学部 兼務)白井 章詞准教授留学中に海外で就職をするのか日本で就職するのか悩み、その結果、就職活動を始めるのが遅くなっていました。
相談や情報交換ができる友人がいなかったことも、不安を大きくしているように見えました。
将来に対する考えや就職活動についてヒアリングし、不安の解消と帰国後の就職活動の進め方について一緒に考えました。
帰国前に本学卒業生と面談できる機会を設けたのは、留学生は短期間のうちに選考を受けなければならず、企業研究が浅くなりがちだからです。
大人世代は、若者がいろいろな国籍の学生と時間をかけて交流してきたことで、何を感じ学んだのか、そしてこれからの人生にどのように生かしていきたいと思っているのかに興味を持っているようです。ぜひ、大人世代に武田さんの学びをシェアしてください。

英語を使うよう心がけました。

環境をテーマに垣根を越えてつながる
世界
英語を使うよう心がけました。


(2024年2月19日~3月22日) 留学前年の夏に、海外の提携校から環境科学部に留学生を迎えて実施された「環境サマースクール」にも参加しました。
本学では、独自の留学プログラムを設けている学部があります。
語学修得を主な目的とした短期留学と比べて、より専門性の高い学びを得られる点が魅力の一つ。
環境科学部で実施されている「短期国際環境フィールド研修」も、世界の学生とグローカルな環境問題について共修することを目的としたプログラムです。
昨年、本プログラムに参加した竹原妃利さんに話を聞きました。

「留学期間は約1カ月で、講義やグループワーク、フィールドワークを体験しました。 講義は14コマあり、水や森林問題など幅広いテーマについて現地の先生方から学ぶことができました。 私自身、卒業研究では大気環境と薬用植物の成分変化の関係について取り組んでいるため、植物系の講義が特に興味深かったです。 これまでの自分の研究とは異なる視点から問題提起されていて、研究の醍醐味を再確認する機会にもなったと思います」。
その一方で、現地の学生と行ったグループワークでは反省点もあったのだとか。
「タイの学生は、自国が抱えている環境問題について現状を明確に発言できます。私たちは1年生の講義で習ったかな?その程度の情報量しかないのとは対照的でした。講義の内容やディスカッションの精度など、現に環境問題が発生しているフィールドに行けたからこそ見えた視点から学ぶことで、プログラム参加者は、帰国後の学びへの向き合い方が変わったのではないでしょうか」。
環境という壮大かつ難しいテーマだからこそ、「面白い」と感じることが研究の原動力になります。留学を通じて新しい視点を得た竹原さんは、この春、本学の大学院に進学することを決めました。
思い描いているのは
新しいリーダー像母国の公衆衛生に
変革をもたらす

エマニュエルさんの母国ナイジェリアの人口は約2億人。
アフリカ最大の経済規模を誇ります。
その一方で、マラリア、HIV、ラッサ熱、黄熱病などさまざまな感染症との戦いの歴史があり、その戦いは現在も続いています。
ナイジェリア政府は2011年にナイジェリア疾病予防センター(NCDC)を設立しました。
公衆衛生エマージェンシーマネージャーとしてNCDCに在籍していたエマニュエルさんは、2022年に長崎へ。
プラネタリーヘルス学環の博士後期課程「長崎Doctor of Public Healthプログラム(DrPH)」に籍を置き、2025年9月までの3年間で博士(公衆衛生学)の学位取得を目指しています。
そもそもエマニュエルさんは、なぜ本学を留学先に選んだのでしょうか。
そこには、発展途上国が抱える深刻な問題が関係していました。

「ナイジェリアには、想定で54の重大感染症が存在します。しかし、国が感染症対策にかける予算は全体のわずか5%程度。もともと私は臨床医になるはずでしたが、現状を目の当たりにすればするほど、この国をコントロールするには医学よりも先にリーダーシップやマネジメント力が必要だと感じるようになりました。予算に対する国の方針はなかなか変わりません。それだったら別の角度から資金を生み出す手法を見つけ出し、母国の感染症対策に貢献したい。長崎大学には、日本で唯一プラネタリーヘルスに特化したリーダー育成のプログラムがあります。ミッションを完了するための環境が整っていると思いました」。
現在、医療機関が排出する二酸化炭素について、長崎大学病院に対する調査などを踏まえデータ分析を行っているエマニュエルさん。
本学での研究実績を足掛かりにして、将来的には自然保護と経済の二つの観点から、母国の感染症対策につなげようとしています。
「例えばラッサ熱は、50年もの長い間、感染拡大が後を絶たない重大感染症です。理由は、収穫を終えた農家の人たちが、不要になった稲などを農地で燃やしてしまうからです。自然界を追われたネズミが人家に逃げ込み、そのネズミを媒介して感染が広がります。畑を燃やさないでほしい、自然を保護してほしいと専門家が訴えても聞き入れてはくれませんが、農家に給付金を支給できるようになれば抑止力になるでしょう」。
プラネタリーヘルス学環設立後、学生第1号となったエマニュエルさんの研究成果に期待が寄せられています。
「期待はプレッシャーではなく信頼だと思っています。だから私はその思いに応えたいです」。
社会学、経済学、工学、環境学、医学、データサイエンスなどのそれぞれの専門家が学問領域を超えて地球規模の課題に取り組み、俯瞰する力と実行力を備えた実務家リーダーを養成する全学的組織。2022年に設置され、最初に「長崎Doctor of Public Healthプログラム(DrPH)」が開講しました。DrPHは、公衆衛生に変革をもたらすリーダーを育成する高度専門教育プログラムです。


Ukraine
ウクライナ避難民学生のその後
本学では、修学が困難になったウクライナの学生たちに学びの場を提供することを目的として、2022年5月~10月の間にウクライナから18人の学生を受け入れました。
その学生たちの今をご報告します。
現在も長崎大学に在籍している学生・11人
2023年4月と2024年4月にそれぞれ3人ずつ、計6人が母校の卒業資格を取得した後、本学の多文化社会学研究科博士前期課程を受験して合格し、現在は正規留学生として入学し、研究を続けています。
その中には成績優秀で海外でのインターンシップに選抜された学生もいます。
さらに1人が熱帯医学・グローバルヘルス研究科博士前期課程を受験して合格し、2024年10月より正規学生として在籍しています。
残りの4人は特別聴講生として、学部の講義や日本語の講義を受講しています。
母校の卒業資格を取得した後は、大学院の受験や日本での就職、帰国などそれぞれの希望に応じてサポートしていきます。
本学に在籍している学生に対しては、授業料や寮費を免除し、生活費の支給支援を継続しています。
他大学へ移籍した学生・5人
5人の学生が、自分の学びたい学部がある、住みたい場所があるなどの理由で、主に東京や大阪の大学に移りました。
帰国した学生・2人
2人の学生が帰国しました。ウクライナ政府機関への就職にチャレンジしている学生もいます。
Vol.87
2025年3月1日発行「人を結ぶ 地域と繋ぐ」をコンセプトに、長崎大学の思いや姿、描く未来などを共有し、
多くの皆様に長崎大学へ関心をお寄せいただけるような広報紙を目指します。