Feature[特集]

哲学や思想史が柔軟な教育観を養う

特集 2023/04/19

教育学部の必修科目である教育原理論と道徳教育論を担当している山岸 利次 准教授は、2020年秋に着任したばかりです。
「履修者が多いので、時節柄、自動的にリモート授業となりました。学生の皆さんとはまだしっかり対面していないんですよ。私の専門は、教育哲学・教育思想史、そして教法。『法』は方法(メソッド)ではなくて法律のことです。もともと体罰やいじめの問題に関心があって、国連の『子どもの権利条約』に関する民間の代替的報告書の作成や、いじめ防止対策推進法が定める第三者委員会によるいじめ調査にも関わってきました」。 

教育学部でも哲学や思想史、法律などを学ぶとは、意外です。

でも確かに、これから教員になる人は、学校の現場でトラブルが起こったらどうしよう、訴えられたら大変だ、という不安を抱えているかもしれません。
「学校の先生になりたいと思う学生の多くは、きっと良い教育経験を積んできているでしょう。しかし、実際の現場ではさまざまなことが起こります。今の教育制度の下で困難を抱え、苦しんでいる子どもがいるのも事実。そうした子どもたちの思いを知るには、一度自分の教育観を崩し、新たにつくり直す必要があります。講義のオリエンテーションで必ず話すのが『今の学校教育を必然だと思うな』ということ。

『偶有性(contingency)』という言葉を使い、他の教育もありうることを伝えます。

『じゃあ他の教育制度って?』と想像力を羽ばたかせるために用いるのが、他国の教育制度と比較すること、教育の歴史を知ること、そして思想家の作品を読むことです。今ある教育の姿から自由になって『教育とはどうあるべきか』を考えるための講義だと話します。すごく大風呂敷なんだけど(笑)」。

2021年に出版した教育基本法の解説書(左・学陽書房、共著)と、学位論文執筆のために読み込んだ19世紀の道徳統計についての思想書。
「教育っていったい何だ?」と考えるようになったのは、男子学生は全員丸刈り、体罰は当たり前という管理教育を受けた中学時代。
写真は、その頃の「山岸少年」です。

「考えてみると、子どもにとって学校とは学び場であるだけではなく、一日の大半を過ごす場所でもあります。子どもたちの居場所を確保するため、また、しっかりした人間関係を築くために学校の先生ができることは何なのか。格差や子どもの貧困などが問題視される中で、目の前の子どもの状況に合わせて対応できる、柔軟な教育観を身に付けてほしい。それが私の目的です。」

山岸 利次 准教授 / YAMAGISHI Toshitsugu

東京大学教育学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科専任講師、宮城大学看護学部准教授を経て、2020年に長崎大学に着任。専門は、教育哲学、教育思想史、教育法。

担当講義

教育原理論(教育2年)/道徳教育論(教育3年)/教育哲学(教育1~4年)/教育原理(全学・教職課程)

山岸先生より一言

私は前任校で看護学部の教職科目を教えていました。養護教諭の養成に携わっていましたが、そういったキャリアも役立てたいですね。保健室から見る子どもの姿は、教室とは違います。教育問題のフロントラインに立ち、苦しんでいる子どものSOSを受け止める取り組みは、近年ますます活発になっています。