Research[研究]

第3回 知の融合で新しい時代へ

研究 2024/06/20

本稿は2024年6月20日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

半導体という言葉から考える「半導体人材」

 本県でも半導体関連企業の投資が相次ぎ、地域経済の牽引役としての期待が高まる中、半導体人材の育成が急務とされています。しかし「半導体人材」とは具体的にどのような人材なのでしょうか?実はこれはややこしい問題です。

 そもそも半導体とは、全く電気が流れないわけではないのに完全に電気を通すわけでもない、という中途半端な性質をもった材料のことです。不純物を混ぜるとその電気的な性質が変わるのですが、異なる性質の半導体を合体させると、電気を一方向だけに流したり、自由に止めたりできる電子部品を作ることができます。

 照明にも使われるLEDもこのような部品の一種で、実際LEDも電気を一方向にしか流しません。これら電子部品も単に「半導体」と呼ばれます。また、大量の電子部品を小さなチップに構成した集積回路も「半導体」と呼ばれ、一般にはこの意味で使われていることがほとんどです。集積回路というと難しいですが、英語ではIntegrated Circuit、頭文字をとってICです。ICカードなら身近ではないでしょうか。

理工系の学生はみんな「半導体人材」として活躍できる!?

 要は「半導体」という言葉自体が様々な意味をもつのです。当然、「半導体人材」の守備範囲も広範です。多くの複雑な工程を経て製造され、しかも各工程には最先端の技術が必要とされます。半導体はありとあらゆる科学技術の結晶と言ってよく、理工系のどのような分野の学生でも、半導体産業と何らかの接点を見出して活躍できる可能性があります。しばしば採用担当者が口にする「理工系であれば専門分野は問いません」は、多少のリップサービスを割り引いたとしても、あながち間違ってはいません。

新しい時代を切り拓く人材育成 キーワードは「知の融合」

 日本では理工系の学部をもつ大学ならば半導体を学ぶことができます。しかし、自分の専門は半導体産業と無関係だと思っている学生が多く、これは人材育成の観点では大きな機会損失です。そこで長崎大学では、大学院教育に着目しました。2024年度設置された総合生産科学研究科には異なる学部出身の学生が在籍しますが、分野に関わらず履修できる科目として、半導体の設計、製造、活用に焦点を当てた3科目を開設しました。県内外、外資系など多くの半導体関連企業から講師を派遣いただき、本学教員と連携して担当しています。本学OBの若手社員を関東から派遣してくださった企業もあり、学生にとっては最新の業界トレンドを学べるだけでなく、「半導体人材」のロールモデルに触れ自らのキャリア形成を考える契機にもなります。予想を大きく上まわる100人近くが登録した科目もあり、急遽教室を変更するなど滑り出しは上々です。

 驚くべきスピードで発展してきた半導体技術ですが、微細化のレベルがいよいよ原子の大きさに近づき、その限界もささやかれ始めています。次のブレークスルーは、おそらく異分野融合的な研究開発環境から生まれるでしょう。長崎大学の取り組みは、さまざまな分野の研究者や、技術者、教育者が産学の垣根を超えて気軽に集える環境を実現しており、これが長崎型半導体人材育成の最大の強みとなるはずです。

研究者情報

長崎大学情報データ科学部長・教授

長崎大学総合生産科学域マイクロデバイス総合研究センター・副センター長

柴田 裕一郎(しばた ゆういちろう)

関連リンク

長崎大学総合生産科学域マイクロデバイス総合研究センター(CAMRIS)

長崎大学大学院総合生産科学研究科

長崎大学情報データ科学部