Research[研究]
本稿は2024年3月21日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。
■ながさきBLUEエコノミー (nagasaki-u.ac.jp)
地域一体となった取り組み
これまで1年にわたり、長崎における水産業の未来を、養殖技術の開発や地域活性化などの視点から考えてきました。その中で、水産県長崎の再生には国内マーケットのみならず海外へ生産物を届けることが必要であり、その一つとして長崎で生産したブリを「JAPAN鰤」として海外へ販売する計画をお示ししました。それを実現するためには、生産から販売までの体制を地域ぐるみで考える必要があります。
長崎では、天然魚、養殖魚問わず、活魚や鮮魚としての販売が主流でした。しかし、海外への輸出にあたり、活魚・鮮魚のみの販売には限界があります。それは、マーケットの拡大がますます難しくなる国内でも同じです。長崎産の魚を多くの人々に届けるためには、活魚・鮮魚に加えて消費者の購買意欲を掻き立てる加工品を開発し、適切な戦略のもと販売することが不可欠です。
社会の動向やニーズに合わせた加工、国や地域の食文化にあった加工を考え、それを生産地で行う。付加価値のある商品を生産する体制を地域に作ることによって、雇用が生まれ、経済的メリットも膨らみます。当たり前のことのようですが、水産を主産業とする他地域と比べ長崎はこの取り組みが非常に遅れています。
長崎の水産の未来には、生産から加工・流通まで一貫した体制の整備が必要です。長崎には他に勝る海・水産物・文化などの素晴らしい素材があるのですから、地域一体となった取り組みによって、日本有数の水産海洋産業拠点とすることができるはずです。
若者の人材育成
このような未来を見据えた活動を進める上でも大切なことは、10年、20年後の長崎の水産海洋産業を支える人材の育成です。長崎大学には水産学部がありますが、そこで学ぶ学生だけではなく、他の学問領域を学ぶ学生や、生産者、加工業者、飲食業者、行政に携わる若者などを地域のリーダーとして、街ぐるみで育てる必要があります。
さらには小中高生に長崎の水産や海の、さらには水産海洋産業の魅力を伝える教育が必要です。併せて、修学旅行で訪れる他県の若者に向けた海教育を展開し、「長崎の海と水産」サポーターを育てることも必要です。しかし、これらの教育・人材育成を達成するためには、机上の学習だけでは限界があります。
実際の海を知り、養殖、漁業、加工や流通の現場を体験すること、そして何よりも長崎の海産物の味を楽しむことが大切であり、そのための実践教育こそが未来を背負っていく人材を生むことにつながります。長崎大学では、伊王島と端島(軍艦島)の中間にある高島に新たな研究・教育施設として「高島水産研究所」を開設しました。ここを活用し、地域の子どもたちから、大学生、地域産業に関わる若者、そして一般市民を巻き込んだ実践教育を進めようと考えています。
水産を柱とした長崎の未来は、地域産業の6次化と人材育成によって開けると確信しております。それは、この地域に定着した若者によって、長崎が変わることに繋がります。これこそが「ながさきBLUEエコノミー」の目指す「未来予想図」です。
研究者情報
長崎大学 海洋未来イノベーション機構 機構長
「ながさきBLUEエコノミー」プロジェクトリーダー
征矢野 清(そやの きよし)