Research[研究]

第2回 「JAPAN鰤」を世界へ

研究 2023/05/18

本稿は2023年5月18日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

どうしてブリなのか?

 

 前回、養殖を柱とした水産業の再生と地域活性化の必要性について説明しましたが、どの魚種を対象として、どのような養殖を行うべきかについて今回は解説します。我が国の主な海面養殖対象魚種は、ブリ、マダイ、ヒラメですが、近年はクロマグロやトラフグの養殖も盛んに行われています。「ながさきBLUEエコノミー」では、国内販売はもとより、海外への販売を視野に入れた養殖に注目していますが、この中で海外への輸出が安定した伸びを示しているのは「ブリ」です。では何故ブリなのでしょうか。ブリは日本固有種であり、ヒラマサやカンパチなどと同じ仲間の魚です。鹿児島県南部海域や男女群島(長崎県)などを主な産卵場とし、ふ化後は、流れ藻に寄り添うように産卵場から海流に乗って北上します。その後、日本海あるいは太平洋を北上し、そこで成長して、再び生まれた海域に戻って産卵します。我が国では流れ藻に寄り添うブリの稚魚(これを、モジャコと言います)を捕獲し、養殖用の種苗(天然種苗)として用いています。我が国のブリ養殖の85-90%はこのような天然種苗を用いて行われています。養殖の中心は、鹿児島県、大分県、愛媛県、宮崎県、高知県、長崎県で、全国の生産量は約11万トン(2020年)と、我が国で最も養殖されている魚種です。養殖ブリの輸出は、北米を中心に2009年からの10年間で約3倍に増え、2019年には1万トンを超えるまでになりました。これは海外における日本食ブームや健康志向によるところが大きいのですが、脂ののりやその旨味などに加え、生食から加工まで幅広く対応できるなどブリの特性が高く評価されています。そこで水産庁も「養殖業成長産業化総合戦略」において、海外へ向けた養殖魚販売の筆頭魚種としてブリを挙げており、2030年には国内における生産量を24万トンにまで増やし、輸出を促進したいと考えています。

海外展開のためにクリアしないといけない課題

 しかし、海外における養殖ブリの販売拡大には、解決すべき課題があります。その一つが生産魚の安全性と養殖の環境への配慮です。海外では卵から出荷までを人の管理下に置いて生産された履歴の明らかな完全養殖魚こそが安全な魚とされています。また、天然の資源に依存した養殖や環境を汚染する可能性のある養殖も好まれません。我が国における現在のブリ養殖は天然から捕獲したモジャコを利用しています。つまり産卵から種苗の捕獲までの履歴が不明です。加えて、天然資源への影響も指摘されかねません。さらに、波風の影響を受けにくい穏やかな内湾域で養殖は行われていますが、ここは流れが緩やかなことから海を汚しやすく、また病気等が蔓延しやすい環境です。これらの課題を解決するためには人工種苗による養殖や、流れのある沖合での養殖が必要となります。長崎大学では生産者、自治体、企業と連携して、これらの課題を解決し、人工種苗を用いた環境に配慮した養殖ブリ「JAPAN鰤」の海外展開を目指します。

研究者情報

長崎大学 海洋未来イノベーション機構 機構長 

「ながさきBLUEエコノミー」プロジェクトリーダー

征矢野 清(そやの きよし)

プロフィール

関連リンク

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