Research[研究]

#1 ― 研究テーマと抱負 ―

研究 2026/03/10

 本学総合生産科学域(水産学系)・水産学部の近藤能子准教授が、第67次南極地域観測隊の研究者として参加することとなりました。長崎県からの参加は、観測船「しらせ」に乗艦する海上自衛隊員を除けば、2010年出発の第52次隊以来約15年ぶりとなります。
 近藤准教授は、海洋の生態系を支える微量元素「鉄」の循環や生物活動との関わりについて研究しており、今回の観測では南極海における鉄の分布やその役割を解明するための観測に取り組みます。
 南極観測に向けた研究テーマや抱負、観測船「しらせ」での研究活動や船上生活の様子などについて、近藤准教授より寄稿いただき、「活動短報」として連載でお届けします。
 第1回は、今回の南極観測で取り組む研究テーマと、その背景、そして観測に向けた抱負について紹介します。(広報戦略本部)

#1 ― 研究テーマと抱負 ―

 第67次南極地域観測隊では、海の生態系を支える微量栄養素である鉄の分布を南極海で分析するためのチームの一員として参加します。どのような生物にも鉄は生命活動に欠かせない元素で、海洋一次生産を担う植物プランクトンも例外ではありません。しかし、一般的に鉄は海水中では極めて溶けにくく、生物にとって使いやすい溶けている鉄(溶存鉄)は、粒子化して沈降してしまう傾向があります。実際、海水中の鉄濃度は水道水のそれに比べ圧倒的に低いことが知られています。南極海では、海への鉄の供給源として重要視される大陸由来の鉄が少ないため、南極海の植物プランクトンは常に鉄不足であることが示されています。一方で、氷縁域など海氷が浮かぶ海域では、時おり植物プランクトンが大増殖するため、棚氷や海氷が海洋での鉄の輸送に関わっている可能性が考えられます。

 今回の第67次南極地域観測隊では、昨年(第66次)に引き続き、棚氷や海氷がどのように鉄を運び、そして植物プランクトン増殖を促進させているのかを調べることを目的に南極観測船「しらせ」で観測を実施します。先に述べたように、南極海における一次生産の制限要因としては鉄不足が挙げられていますが、この観測では鉄の濃度を調べるための試料を採取するだけでなく、海洋における鉄の溶けやすさの指標として考えられている溶存有機物(有機配位子)など、海水中の溶存鉄が、どのような化学的形態で存在するかについても調べます。また、植物プランクトンの成長には鉄以外にも多様な栄養物質が必要となりますが、南極海の中でも、場所によっては鉄だけではなく、補酵素であるビタミンB12も植物プランクトン増殖にとって同時に不足しているという、いわゆる共制限(※複数の資源が同時に成長を制限する現象)が起こっている例も報告されています。

 こうした背景から、今回の第67次観測では、「鉄分析チーム」がこれまでの研究で培ってきた微量金属元素の汚染に十分に注意を払ったサンプリング技術を駆使してサンプリング・分析を行います。このチームの一員として、筆者は鉄と錯形成する有機配位子や酸化還元状態から鉄の化学形態、ビタミンB12の分布の把握、加えてトッテン氷河域周辺域の天然植物プランクトン群集の成長が鉄とビタミンB12の共制限を受けているのかどうかについて検証したいと考えています。

 これまで、筆者は海洋観測を通した研究を20年以上続けてきましたが、南極海の観測は初めてです。海洋学者であり、鉄の研究を行う人間としては、南極海は一度は行ってみたかった海域ですので、船上での実験を楽しみにしています。

写真:JARE67鉄分析チームの皆さんと
(前列左から2人目が近藤准教授 しらせレグ2の出港日2026年2月26日).

プロフィール:
近藤 能子
長崎大学総合生産科学域/大学院総合生産科学研究科 准教授
専門は海洋生物地球化学。これまで沿岸域から外洋域まで様々な海域において鉄を中心とした微量栄養物質の化学形態やその植物プランクトン増殖との関係を研究。
第67次南極地域観測隊では、トッテン氷河周辺海域で微量栄養物質添加培養実験などを行う。
2025年12月、本学の優れた若手女性研究者に贈られる「Y²(Y squared) Award ~Yell for Youth~」を受賞。

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近藤 能子 (Yoshiko Kondo) – マイポータル – researchmap