Research[研究]

第11回 県内産業のゲームチェンジャー

研究 2025/02/21

本稿は2025年2月21日(金)長崎新聞掲載の寄稿原稿(長崎県産業労働部)を再編集したものです。

世界的企業の進出により発展してきた長崎県の半導体産業

 本県における半導体産業を語る前に本県産業の変遷に少し触れます。近代の本県の産業は、明治期に工部省長崎造船局を三菱が借り受けて以来、永く造船業が基幹産業となっており、現在まで続いています。

 一方、本県の半導体産業の歴史は、1980年代初頭、米国の大手企業フェアチャイルド社が諫早市に進出したことに始まります。現在でも、モバイル向けイメージセンサーで世界トップシェアを握るソニーグループの基幹工場が諫早市にあります。大村市には同じく80年代、小松電子金属がシリコンウエハーの製造工場を立地。現在ではシリコンウエハーで世界2位のシェアであるSUMCOグループの工場となっています。

 このように本県の半導体産業は世界的企業の進出により発展してきました。こうした中、大村市に加え、本県の半導体産業の中心である諫早市も2021年から転入者が増加するなど、人口減少対策としても重要な産業となっています。

2030年までに半導体関連産業における売上額1兆円を目指す

 国は経済安全保障リスク等の観点から半導体関連企業の国内立地を後押しするため「半導体・デジタル産業戦略」を打ち出しました。この戦略により、九州ではTSMCの熊本県進出をはじめ、本県でも諫早市に京セラの進出が決定するなど、大規模な投資が相次いでいます。

 このような中、本県では2030年に県内の半導体関連産業において売上高1兆円、雇用8,860人を達成することを盛り込んだ「長崎県半導体産業成長戦略」を今般策定しました。その中では、①県内大手企業の規模拡大を図るとともに、県内中小企業への波及を考えサプライチェーンの維持・拡充を目指すこと、②「ながさき半導体ネットワーク」を通じた産学官連携による人材育成・確保の仕組みづくり、③工業団地等のインフラ整備に取り組むことの三つの柱を掲げています。

人材育成が議題となった「ながさき半導体ネットワーク」の総会(2025年2月19日)

 具体的には、県内企業が造船業を通じ培った技術や人材が生かせる半導体製造装置分野において、大手企業の受注獲得に向けた設備投資支援や技術指導、リスキリング支援などに取り組みます。企業誘致においては他県との競争を勝ち抜くため、東彼杵町と連携して大手企業の進出にかなう広さや水を備えた工業団地の整備を計画しています。この工業団地に大手企業が進出することは、県北地域への波及はもとより本県経済の発展に大きく寄与するものと考えています。

半導体関連産業の振興で県内産業のゲームチェンジを

 最後に本県の産業振興に当たっては、大きく二つの視点をもって施策を遂行しています。

 一つは、地域を支える県内中小企業への支援であり、中小企業の発展なしに地域の維持はなしえないと考え、賃上げや物価高騰等、厳しい経営環境にある県内企業の支援を今後さらに強化してまいります。もう一つは今回のテーマである半導体市場をはじめ、航空機産業や洋上風力関連産業など世界的に成長する産業分野を本県へ取り込むことです。

 これにより雇用を創出し、若者を中心とした人口流出を少しでも減じていきたいと考えています。中でも本県産業のゲームチェンジャーとなり得る半導体関連産業の振興に県としても全力で取り組んでまいります


執筆者情報

長崎県産業労働部長

宮地 智弘(みやじ ともひろ)

関連リンク

長崎県ホームページ「半導体産業の振興」