Research[研究]

第1回 安定供給へ急務の人材育成

研究 2024/04/18

本稿は2024年4月18日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

九州で急成長する半導体産業

 今年はまさに半導体ルネサンスの年であると言われています。半導体受託生産の世界最大手メーカーであるTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に第1工場を設立。2024年10月には本格的な半導体生産が始まります。

 TSMC第1工場では、これまで日本企業では製造されなかった10数ナノメートル(ナノは10億分の1)まで精密設計されたロジック半導体が生産され、画像センサーや自動車製造の心臓部である電子機器類の供給が可能になります。同県には2027年、第2工場が増設される予定。わが国の半導体関連産業への設備投資総額は、1兆2千億円以上にもなると試算されています。まさに九州を中心として半導体産業の復活劇が始まったと言っても過言ではありません。

 1980年代はわが国の半導体産業は技術力と生産力で世界1、2位を争うほどにまで隆盛しました。世界の半導体総売り上げのうち50%以上を国内半導体メーカーが占め、まさしくジャパン・アズ・ナンバーワンの時代でした。

 その後、米国の半導体産業振興の巻き返しと共に、アジア各国による技術過当競争が繰り広げられました。わが国の製造業に関する研究開発や経営形態の変容も相まって、現状へ推移してきました。しかし、なぜ今頃になって、半導体産業が再び活発になってきたのでしょうか。

産業の発展に欠かせない半導体

 自動車から家電製品に至るまで電子制御システムには半導体が重要な役割を担っています。スマートフォンの高画質化やパソコンの大容量かつ高速演算処理が容易になった背景には、半導体の急速な小型化および高積層化の技術進歩があります。これらの家電製品や電子制御システムの製造には半導体の安定供給が大前提。もし半導体が入荷できない事態が起きてしまうと、ほとんどの工業生産がストップしてしまい、経済的にも甚大なダメージを及ぼします。

 半導体は「産業の米」であるとも言われ、まさに半導体は製造業の命であると言えます。産業の米でもある半導体を国外生産に依存していると、国際情勢次第では大きな影響を受け、不安定な製品市場に陥る危険性があります。また、スマートフォンやパソコンの普及と共に、ますます人工知能(AI)やビッグデータ解析に基づく高性能デバイスやシステム開発が必要になってきます。このような理由からもわが国は半導体産業の永続的発展を推進し、技術革新のためにもオールジャパンで貢献していく必要があります。

人材育成が喫緊の課題

 しかしながら、国内で半導体産業を支える上でクリアしなければいけない課題があることも否定できません。それは、この産業を担うための人手が不足していることであり、半導体開発のための高度人材育成が急務とされています。現在は、どの業界も労働者不足が深刻。半導体は細かい工程も含めると600~800もの膨大なプロセスで製造されています。したがって、最先端技術から効率的なプロセス工程に至るまで広範囲の人材育成が求められています。

 長崎大学では、新しい大学院として今年4月に総合生産科学研究科を設置しました。この新研究科では、半導体の設計・製造・活用に関する重要科目を新設し、半導体の基礎知識習得から最先端技術利活用に至るまで、さまざまな学部教育を受けてきた学生にも理解できるようなカリキュラムを準備しています。大学教員だけでなく、産業用半導体製造の第一線で活躍されている企業研究者を講師として招聘し、研究のみならず人材育成においても産学連携で推進しています。

 本連載では、産官学による長崎型の特徴的な半導体人材育成と、半導体を基盤とする新しい未来社会について執筆していく予定です。


研究者情報

ながさき半導体ネットワーク会長

長崎大学総合生産科学域長・教授

木村 正成(きむら まさなり)

関連リンク

長崎大学大学院総合生産科学研究科

ながさき半導体ネットワーク

長崎大学総合生産科学域マイクロデバイス総合研究センター(CAMRIS)