Research[研究]

第7回 魚粉に頼らない餌の開発

研究 2023/10/11

本稿は2023年10月19日(木)長崎新聞掲載の寄稿原稿を再編集したものです。

■ 深田陽久教授 研究サイト

■ 第6回 ブリ類養殖振興勉強会 発表資料
  

養殖ブリの飼料課題

 ながさきBLUEエコノミーで生産する「JAPAN鰤(ぶり)」は、持続性に配慮した飼料での育成を目標としています。

 養殖されているブリは、もちろん餌を食べて育ちます。では、わずか数グラムのもじゃこ(ブリの稚魚)が4キログラムに成長するまでに、どのくらいの餌が必要だと思いますか。実は、乾燥重量で、約12キログラムの餌を必要とします。

 ブリ養殖が始まった頃には、豊富に獲れていたイワシ、サバ、アジなどが生餌(なまえ)として用いられてきました。現在では、生餌が使われる事はほとんど無くなり、より環境に配慮したモイストペレット飼料(ミンチした冷凍魚と粉末飼料を混合し、成形したもの)やエクストルーデットペレット(EP)飼料(飼料原料を加圧・押出しして、成形したもの)が使用されています。

 しかしながら、形態は違えど、すべての飼料に共通点があります。ブリは魚食性のため、どのような飼料であっても栄養として炭水化物はほぼ含まれておらず、タンパク質と脂質が主となっています。

 そのため、いずれの飼料でも主原料は天然魚になってしまいます。粉末飼料やEP飼料では、漁獲されたイワシ等を加工して製造された魚粉が使われています。ブリ用飼料では、タンパク質源として、この魚粉の配合率がとても高く、成魚用飼料でも50%程度含まれています。

 このように養殖のブリを育てるためには、飼料の原料として多くの天然魚が必要になっています。つまり、ブリをはじめとした養殖魚の生産は、魚粉の原料となる天然魚の漁獲量の影響を受けるのです。また、その天然魚の資源量も枯渇が心配されている一方で、魚粉の需要は増加しており、価格が高騰しています。

 このような状況から、環境への配慮や経済的な面も含めた持続的なブリ養殖を行うためには、魚粉の配合を少なくした「魚粉に頼らないブリ用飼料」の開発が求められています。

魚粉代替原料と持続可能なブリ養殖の未来

 現在、魚粉(タンパク質)の代替原料として、大豆油かす、濃縮大豆タンパク質、コーングルテンミール(とうもろこしからコーンスターチを製造する際に発生する副産物)などの植物性タンパク質、鶏の非可食部位を粉末状に加工したチキンミール、魚の荒粕などの動物性タンパク質が主に使われています。

 これらは、すべて食品を加工した際の廃棄物から作られています。最近では、昆虫ミールやバクテリアミールなど、廃棄物を利用して生産される新規原料の利用も研究されています。しかしながら、本来、ブリが食していない原料を用いて飼料中の魚粉を代替すると、様々な問題が発生します。

 例えば、嗜好性が下がり、ブリに餌として認識されずあまり食べて貰えません。その他、消化や成長の遅延や抗病性の低下といったことが懸念されています。これらの問題は、飼料に必要な栄養成分を補うことで、おおよそ解決できることが分かってきています。ながさきBLUEエコノミーでは、それらの必要な栄養成分の生産技術を含めて「魚粉に頼らないブリ用飼料」の開発を進めています。これによって、持続性の高いブリ養殖の実現を目指しています。

研究者情報

高知大学 教育研究部 自然科学系農学部門 教授

ながさきBLUEエコノミー 養殖用飼料研究開発課題リーダー

深田 陽久(ふかだ はるひさ)

関連リンク

「ながさきBLUEエコノミー」HP